「そういえば、ダーツの神様、フィル・テイラーって今、何をやっているんだろう…?」
ふと、ダーツバーの喧騒の中でそんな疑問が頭をよぎったことはありませんか。
私もです。2018年1月1日、アレクサンドラ・パレスで行われたPDCワールド・ダーツ・チャンピオンシップ決勝。あの地鳴りのような歓声と、勝者ロブ・クロスを称える彼の潔い姿は、今でも鮮明に思い出せます。まるで昨日のことのように。
あの瞬間、ダーツの一つの時代が、ドクン、と音を立てて終わった気がしました。しかし、伝説は本当に終わったのでしょうか?
引退後の彼の人生、その現在の姿を追いかけることは、単なるゴシップ探しではありません。それは、私たちが愛したダーツというスポーツの過去と未来を繋ぐ、大切な旅路なのです。
衝撃の引退から数年、彼の新たな舞台

多くのファンは、フィル・テイラーがダーツから完全に離れ、悠々自適の引退生活を送っていると考えていたかもしれません。実のところ、私も最初はそう思っていました。あれだけの成績を残し、莫大な富を築いたのですから、ゴルフをしたり、世界中を旅したり、穏やかな日々を過ごしているのだろうと。しかし、あの男が、あれほどの情熱と勝利への渇望を持った男が、そう簡単にダーツから離れられるはずがなかったのです。
彼の現在の主戦場、それは「ワールド・シニア・ダーツ・ツアー」です。これは、ダーツ界のレジェンドたちが再び火花を散らす、夢のような舞台。テイラーだけでなく、マーティン・アダムス、ジョン・パート、ロバート・ソーントンといった、一時代を築いた名選手たちが顔を揃えます。正直なところ、最初にこのツアーの話を聞いた時、「まあ、お祭りのようなものだろう」と少し侮っていた自分を殴ってやりたいです。2022年に開催された第1回ワールド・シニア・ダーツ・チャンピオンシップ。そこで見たフィル・テイラーは、全盛期と何ら変わらない、鋭い眼光を放つ勝負師そのものでした。(結果:準優勝)
引退とは一体何だったのか。それはプロのトップサーキットであるPDCツアーからの引退であり、ダーツそのものからの引退では断じてなかったのです。彼はただ、戦う場所を変えただけ。年間100日以上もホテルを転々とする過酷なツアー生活からは解放されましたが、ダーツボードの前に立てば、今もなお彼は「ザ・パワー」なのです。
2025年8月にワールド・シニア・ダーツ・チャンピオンシップ主催していた団体「ワールド・シニア・ダーツ(WSD)」が財政的な問題により活動を停止し、その結果、2026年大会を含む今後の主要なイベントは中止(または事実上の消滅)となったことが確認されています。
フィル・テイラー プロフィール
| 項目 | 内容 |
| 本名 | Philip Douglas Taylor (フィリップ・ダグラス・テイラー) |
| ニックネーム | The Power (ザ・パワー) |
| 生年月日 | 1960年8月13日 |
| 出身地 | イギリス イングランド、スタッフォードシャー州、ストーク=オン=トレント |
| 利き腕 | 右 |
| プロ転向 | 1986年 |
| PDCツアー引退 | 2018年1月 |
| 主な所属団体 | BDO (~1993年)<br>PDC (1993年~2018年)<br>World Seniors Darts Tour (2022年~現在) |
| 入場曲 | “The Power” by Snap! |
| 使用ダーツメーカー | TARGET (ターゲット) ※長年Unicorn社と契約 |
| 世界選手権優勝回数 | 合計16回 (歴代最多)・BDO ワールド・チャンピオンシップ: 2回・PDC ワールド・チャンピオンシップ: 14回 |
| 主なメジャータイトル | ・ワールド・マッチプレー: 16回・ワールド・グランプリ: 11回・プレミアリーグ・ダーツ: 6回・UKオープン: 5回・グランドスラム・オブ・ダーツ: 5回 など多数 |
| 特筆すべき記録 | ・テレビ中継での9ダーツ達成回数: 11回 (歴代最多)・1試合で2度の9ダーツを達成 (史上初)・PDCの設立メンバーの一人 |
| 現在の主な活動 | ワールド・シニア・ダーツ・ツアーへの参戦、世界各国でのエキシビションマッチ出演など |
衰え知らずの情熱!ワールド・シニア・ダーツ・ツアーでの戦績
では、そのシニアツアーでのフィル・テイラーの具体的な成績はどうなのでしょうか。PDCツアーからの引退後、彼がこの新たな舞台に立つと聞いた時、正直なところ「テイラーがまたタイトルを総なめにするのだろう」と多くのファン、そして私自身も考えていました。しかし、現実はそう甘くはありませんでした。それこそが、シニアツアーの面白さであり、彼の新たな挑戦の物語をより深いものにしているのです。
記念すべき2022年の初代ワールド・シニア・ダーツ・チャンピオンシップ。世界中の注目が集まる中、テイラーは準々決勝で長年のライバルであるケビン・ペインターに敗退。多くの人が彼の優勝を信じていただけに、この結果は衝撃的でした。初代王者の栄冠は、ロバート・ソーントンの頭上に輝いたのです。
しかし、これで終わらないのがフィル・テイラーです。彼は決して単なる客寄せパンダとして参加したわけではありませんでした。同年5月に開催された初代ワールド・シニア・マスターズでは、見事に準優勝を果たし、健在ぶりをダーツ界に改めて証明して見せたのです。あの時の安堵と興奮が入り混じった表情は、彼のダーツへの情熱が少しも衰えていないことの何よりの証拠でした。
とはいえ、彼が常に勝ち続けているわけではないのが、現在のシニアツアーのレベルの高さを物語っています。翌2023年のワールド・シニア・ダーツ・チャンピオンシップでは2回戦でリッチー・ハウソンに、そして2024年大会ではマンフレッド・ビルダーに1回戦敗退。この年がシニアツアーでの最後の出場となりました。
それでも、彼の存在感はやはり別格です。トーナメントに出場すれば、必ず優勝候補として名前が挙がりますし、その一投一投は観客を惹きつけてやみません。全盛期のように全てをなぎ倒す絶対的な支配力とは違うかもしれません。しかし、年齢を重ねたからこその経験、そしてダーツを心から楽しむかのような駆け引きは、今の彼だからこそ見せられる新たな魅力と言えるでしょう。彼は今もなお、ダーツボードの前で戦い続ける、正真正銘のコンペティターなのです。
私自身の失敗談で恐縮ですが、数年前に彼のシグネチャーモデルのダーツに手を出したことがあります。「これで俺もフィル・テイラーのようになれる!」なんて息巻いて。結果は散々でした。彼のダーツは非常に緻密なバランスで設計されており、私のような素人が投げても、その真価は全く発揮できませんでした。結局、数週間で元のマイダーツに戻してしまいましたが、この経験から学んだのは、「道具だけ真似ても意味がない、彼の強さは技術と精神力の結晶なのだ」ということでした。現在の彼のダーツを見ていると、そのことを改めて痛感させられますね。
驚きの年収!生涯獲得賞金と現在のビジネス
さて、ファンの皆様が気になるであろう、お金の話にも触れておきましょう。フィル・テイラーの年収や資産は、まさに桁違いです。
まず、彼の生涯獲得賞金から見てみましょう。これはPDC(プロフェッショナル・ダーツ・コーポレーション)が公式に発表しているデータから算出できます。
取得方法: PDC Order of Merit(賞金ランキング)の過去データや、各大会の優勝賞金を合算した統計サイトの情報を参照します。
計算式: 主要大会の優勝賞金 × 優勝回数 + その他大会の賞金を合算
結果: 彼の生涯獲得賞金は、約760万ポンド(日本円で約14億円以上)にものぼると言われています。これはあくまでPDCツアーでの公式賞金のみ。エキシビションマッチや招待試合の賞金を含めれば、その額はさらに跳ね上がるでしょう。
では、引退した現在の年収はどれくらいなのでしょうか。これは公表されていませんが、いくつかの収入源から推測することが可能です。
- スポンサー契約: ダーツメーカー「TARGET」との契約は、彼の引退後も続いています。これは単なる用具提供契約ではなく、彼の名前を冠した製品ライン全体のロイヤリティが含まれるため、非常に高額であると推測されます。年間数千万円から、あるいはそれ以上の契約金が発生している可能性も否定できません。
- エキシビションマッチ: 彼は世界中でエキシビションマッチに出演しています。その出演料は、一晩で数百万円に達するとも言われています。年間数十本のエキシビションをこなしていると仮定すれば、これだけでも莫大な収入になります。
- シニアツアー賞金: ワールド・シニア・ダーツ・ツアーの賞金も、彼の収入の一部です。優勝すれば数百万円単位の賞金が手に入ります。
- 関連ビジネス: 彼の名前を冠したアパレルやグッズ販売なども、彼の収入を支えています。
これらを総合すると、フィル・テイラーの現在の年収は、現役トップ選手に匹敵する、あるいはそれ以上の数千万円から1億円以上に達する可能性が十分にあると言えるでしょう。彼はダーツプレイヤーとしてだけでなく、一人のビジネスマンとしても大成功を収めているのです。
フィル・テイラーの主な成績と年間獲得賞金(推定)
【ご注意】
- 「年間獲得賞金」は、PDC(プロフェッショナル・ダーツ・コーポレーション)の公式トーナメントで獲得した賞金額の推定値です。スポンサー契約料やエキシビションマッチの出演料は含まれていないため、実際の年収はこの額を大幅に上回ると考えられます。
- 彼のキャリアは非常に長いため、ここでは特に象徴的な年や、キャリアの転換点となった年を抜粋して記載しています。
| 年 | 主な成績(メジャータイトル) | 年間獲得賞金額(推定) | 備考 |
| 1990年 | BDO世界選手権(初優勝) | 約24,000ポンド | 師であるエリック・ブリストウを破り、伝説が始まった年。 |
| 1995年 | PDC世界選手権(初優勝)、ワールドマッチプレー(初優勝) | 約70,000ポンド | PDC設立後、初代王者に。ここからPDCでの支配が始まる。 |
| 2000年 | PDC世界選手権、ワールドマッチプレー、ワールドグランプリ | 約150,000ポンド | 3大メジャータイトルを独占し、圧倒的な強さを見せつけた。 |
| 2002年 | PDC世界選手権(8連覇) | 約250,000ポンド | 英国のテレビ放送で史上初の9ダーツを達成し、ボーナス10万ポンドを獲得。 |
| 2006年 | PDC世界選手権、ワールドマッチプレー、ワールドグランプリなど | 約500,000ポンド | 世界ランキング1位の座を8年間維持する時代の幕開け。 |
| 2009年 | PDC世界選手権、UKオープン、ワールドマッチプレーなど | 約1,000,000ポンド | 絶頂期。年間獲得賞金が初めて100万ポンド(当時のレートで約1.5億円)を突破。 |
| 2010年 | PDC世界選手権、プレミアリーグなど | 約850,000ポンド | プレミアリーグ決勝で、1試合に2度の9ダーツという前人未到の偉業を達成。 |
| 2013年 | PDC世界選手権(16回目)、ワールドマッチプレーなど | 約700,000ポンド | 最後の世界選手権優勝。通算16回目の戴冠は不滅の記録と言われる。 |
| 2017年 | ワールドマッチプレー(16回目) | 約400,000ポンド | 引退を目前にした最後のメジャータイトル獲得。劇的な優勝だった。 |
| 生涯 | メジャータイトル85勝以上 | 約760万ポンド以上 | PDC公式トーナメントでの生涯獲得賞金。 |
補足
フィル・テイラーの強さは、単に優勝回数が多いだけでなく、長期間にわたってダーツ界のトップに君臨し続けた点にあります。特に2000年代は彼の独擅場であり、ダーツという競技の人気と賞金額を彼自身が引き上げていったと言っても過言ではありません。 2005年から2017年の引退まで、毎年30万ポンド以上の賞金を稼ぎ続けたという記録もあります。 この表は、そんな彼の偉大なキャリアのほんの一部を切り取ったものに過ぎません。
愛すべき家族との絆と、次世代への継承
圧倒的な強さと威圧感から、現役時代のフィル・テイラーにはどこか近寄りがたいイメージがあったかもしれません。しかし、ボードから離れた彼の素顔は、非常に家族思いなことで知られています。彼は妻のイヴォンヌさんと4人の娘に恵まれ、現在は孫もいる、優しいおじいちゃんでもあります。
特に興味深いのは、彼の娘婿の一人であるクリス・メイソンもまた、プロのダーツプレイヤーであるという事実です。一時期はPDCの舞台で戦っていましたが、現在はダーツの解説者やコメンテーターとしても活躍しています。テイラーがメイソンの試合を観客席から見守る姿が、時折カメラに抜かれることもありました。その表情は「ザ・パワー」のものではなく、一人の父親、一人の義父の温かい眼差しそのものでした。
私は以前、とあるエキシビションマッチの会場で、フィル・テイラーがファンサービスをしている場面に遭遇したことがあります。長蛇の列ができていたのですが、彼は一人ひとりと丁寧に言葉を交わし、子供には目線を合わせて優しく微笑みかけていました。その姿を見て、彼の強さの根源には、こうした人間的な温かさや、支えてくれる家族の存在があるのではないかと感じたものです。ダーツの成績だけでは語れない、彼の人間的な魅力。それもまた、私たちが彼を愛してやまない理由の一つではないでしょうか。
彼が直接的に若手を指導するという話はあまり表には出てきませんが、彼の存在そのものが、次世代への最高の教科書となっています。彼のダーツに対する姿勢、勝利への執着、そしてファンや家族を大切にする心。その全てが、彼の残した偉大なレガシーであり、これからもダーツ界に受け継がれていくに違いありません。
フィル・テイラーがダーツ界に残したレガシー

フィル・テイラーという存在がなければ、現在のダーツの隆盛はなかったでしょう。これは決して大げさな表現ではありません。1990年代初頭、彼が中心となってBDO(英国ダーツ機構)から独立し、WDC(後のPDC)を設立したこと。これが、ダーツを単なるパブゲームから、世界的なプロスポーツへと昇華させる大きな転換点となりました。
彼の圧倒的な強さとカリスマ性が、テレビ放映権料の高騰とスポンサーの増加を呼び込み、ダーツの賞金は飛躍的に増大しました。マイケル・ヴァン・ガーウェンやピーター・ライト、そして現在の神童ルーク・リトラーといったスター選手たちが、ダーツだけで巨万の富を築けるようになったのは、間違いなくフィル・テイラーが切り拓いた道があったからなのです。
私自身のもう一つの失敗談を。あれは2010年頃だったでしょうか。PDCワールド・グランプリを現地で観戦しようと、アイルランドのダブリンまで飛んだことがあります。しかし、チケットの入手方法を甘く見ていたせいで、結局会場に入れず、近くのパブでモニター観戦するという情けない結果に終わりました。しかし、そのパブの熱狂たるや、凄まじいものでした。老いも若きも、誰もがテイラーの一投一投に熱狂し、叫び、祈る。その光景を目の当たりにして、「ああ、この人は単なるスポーツ選手じゃない。文化そのものなんだ」と肌で感じました。あの時の苦い経験は、今では私の大切な思い出です。
あなたにとって、フィル・テイラーとはどのような存在ですか?彼のどの試合が、今も心に焼き付いていますか?彼のダーツは、私たちの心に何かを問いかけ続けているように思えてなりません。
彼の現在の活動は、単なる余生ではありません。それは、ダーツというスポーツへの終わりなき愛と、自らが築き上げた世界に対する責任の表れなのでしょう。
伝説は、決して過去のものではありません。フィル・テイラーは今も、私たちの目の前で新たな歴史を刻み続けているのです。彼の挑戦が終わらない限り、私たちのダーツへの情熱もまた、燃え尽きることはないでしょう。さあ、彼の次の試合はいつでしょうか。彼の投げる一本のダーツが、また新たなドラマを生む。その瞬間を、これからも一緒に見届けていきませんか。彼の物語は、まだ終わらないのですから。
では!!
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